年代分析用標準鉱物

①ジルコン

②燐灰石

③チタン石

④柘榴石

鉱物標本

□年代分析用標準鉱物

①ジルコン

・GJ-1 zircon

U–Pb intercept age (Wetherill Concordia diagram) : 608.53 ± 0.37 Ma (95% conf.)(Jackson et al., 2004, Chemical Geology, https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2004.06.017.)

U: 289 ppm; Th: 7.6 ppm; Pb: 25.8 ppm

238U–206Pb: 0.09761 ± 0.00011; 235U–207Pb: 0.8093 ± 0.0009; 207Pb–206Pb: 0.06014 ± 0.00001

GJ-1 zirconは単一の均質結晶に由来する破片が全世界に頒布されており,LA-ICP-MSを用いたU–Pb年代測定において同位体比較正用標準物質として利用されている.ディスコーダントなU–Pb同位体比であるが,その均質性は高い.Th/U比は低い(0.1未満).

・91500 zircon

91500 zircon

U–Pb age : 1065.4 ± 0.3 Ma (1σ) (Wiedenbeck et al., 1995, Geostandards Newsletter, https://doi.org/10.1111/j.1751-908X.1995.tb00147.x.)

U: 81.2 ppm; Th: 28.6 ppm; Pb: 14.8 ppm

238U–206Pb: 0.17917 ± 0.00008; 235U–207Pb: 1.8502 ± 0.0008; 207Pb–206Pb:0.07488 ± 0.00001 (但し非放射起源鉛補正後の同位体比)

91500 zirconは単一の均質結晶に由来する破片が全世界に頒布されており,その極めて高い均質性のために年代分析や微量元素分析の標準物質としておそらくはこれまで最も分析されてきたジルコンであろう。

まさにジルコン分析の基準として用いられてきた91500 zirconであるが、もともとハーバード博物館に所蔵されていた238 gの結晶全てを消費してしまう日が将来訪れるのは必至である。91500 zirconに匹敵する質を有する二匹目の泥鰌を探す、もしくは合成標準物質作製法を開発するなど、我々が解決策を模索しなければならない。

ちなみに91500 zirconが採取されたKuehl Lake付近に産するジルコンはmindatのウェブサイト上で紹介されている。ここに挙がっている中に二匹目の泥鰌がいるかもしれない。

・Plešovice zircon

PSV zircon

U–Pb age (Weighted average of Isotope Dilution-TIMS U–Pb age) : 337.13 ± 0.37 Ma (Sláma et al., 2008, Chemical Geology, https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2007.11.005.)

チェコのPlešoviceに産するジルコンは高ウラン濃度(ca. 1000 ppm)かつ年代値の観点での均質性からLA-ICP-MSを用いた年代分析で度々登場するジルコン標準である。今でも石切り場がおそらく稼働していてavailabilityが担保されているのも良い。日常的に消費しても枯渇の心配はあまりないだろう。その一方で鉱物粒子内部は累帯構造を有し、その不均質性から微量元素濃度標準としては扱いづらい。

・OD-3 zircon

OD-3 zircon

U–Pb age (LA-ICP-MS and SIMS) : 33.0 ± 0.1 Ma (Iwano et al., 2013, Island Arc, https://doi.org/10.1111/iar.12038.)

U–Pb age (Isotope Dilution-TIMS) : 32.853 ± 0.016 (Lukács et al., 2015, Contributions to Mineralogy and Petrology, https://doi.org/10.1007/s00410-015-1206-8.)

OD-3 zirconは島根県の川本花崗閃緑岩に由来する多粒子のジルコンである。OD-3 zirconは複数の研究機関での分析結果からそのU–Pb年代の均質性が評価されており、日本初のジルコン標準物質として活用されている。OD-3 zirconのU–Pb年代とフィッショントラック年代が誤差範囲内で一致することからOD-3 zirconはジルコンダブル年代分析の標準物質として用いられ、中新世やそれより若い時代の研究を遂行する上で不可欠な存在となっている。

②燐灰石

・MAD apatite (Madagascar)

MAD1のU–Pb age (Weighted average of Isotope Dilution-TIMS U–Pb age) : 486.58 ± 0.85 Ma (Thomson et al., 2012, G-cubed, https://doi.org/10.1029/2011GC003928.)

MAD2のU–Pb age (Weighted average of Isotope Dilution-TIMS U–Pb age) : 474.25 ± 0.41 Ma (Thomson et al., 2012, G-cubed, https://doi.org/10.1029/2011GC003928.)

個々の粒子内部では極めて高い均質性を有する反面、粒子ごとにU–Pb同位体比が異なることが知られており、MAD1とMAD2の2種類のフラクションについて報告がある。

・Otter Lake apatite

U–Pb age (Pb–Pb isochron age obtained by step-leaching TIMS ) : 913 ± 7 Ma (Barfod et al., 2005, GCA, https://doi.org/10.1016/j.gca.2004.09.014.)

Lu–Hf age (Isochron age obtained by MC-ICP-MS) : 1031 ± 6 Ma (Barfod et al., 2005, GCA, https://doi.org/10.1016/j.gca.2004.09.014.)

Otter Lake apatiteはカナダのケベック州にあるYates Mineに産する。燐灰石からはU–Pb年代系およびより閉鎖温度の高いLu–Hf年代系について調べられている。特に近年手法開発が進んでいる局所Lu–Hf年代測定を実施する上で重要な年代標準であろう。

③チタン石

・Mt. Doromedary Complex (MDC) titanite

Ar–Ar age (GA-1550 biotite) : 98.79 ± 0.54 Ma (Renne et al., 1998, Chem. Geol., https://doi.org/10.1016/S0009-2541(97)00159-9.)

Zircon U–Pb age (Isotope Dilution-TIMS) : 99.12 ± 0.02 Ma (Schoene et al., 2006, GCA, https://doi.org/10.1016/j.gca.2005.09.007.)

約99Maのモンゾニ岩から分離された様々な鉱物種フラクション(ジルコン、燐灰石、チタン石など)が(特に熱年代の)標準として用いられている。ジルコンU–Pb年代についてはややディスコーダントなU–Pb同位体比が報告されている。チタン石のU–Pb系に関して系統的な調査はなされていないが、各種の熱年代とジルコンU–Pb年代にほぼ違いがないことから、閉鎖温度の観点でそれらの中間にあるチタン石U–Pb系についても年代値は約99 Maであろう。

④柘榴石

柘榴石に対する放射性同位体年代測定の可能性は近年検討が急速に進んでいる。古典的には鉄礬柘榴石のLu–Hf系についてバルク分析から年代測定が実施されており、近年のICP-MS/MSの発達に伴って局所Lu–Hf年代測定法の開発と応用が進んでいる。スカルン鉱床や変成岩に産する灰礬–灰鉄柘榴石は結晶化時に取り込む鉛がウランと比べて顕著に少なく、低ウラン濃度鉱物ではあるがU–Pb年代測定の対象として研究が進んでいる。

・Mali Grossular

U–Pb age (Isotope Dilution-TIMS) : 202.0 ± 1.2 Ma (Seman et al., 2017, Chem. Geol., https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2017.04.020.)

マリに産するジェム質の灰礬柘榴石は年代標準として用いられている。

鉱物標本